関わり続けているからこそ変化がわかる
ゴールデンウィークくらいになると、そろそろクラスの子どもたちも本音が見え隠れしてきます。担任の先生方は、生徒にトラブルが起こり始めて「あー今年も嫌な予感しかしない」と思っている頃ではありませんか?残念ながら、4月当初の生徒の姿は偽りです。「黄金の三日間」とよく言われます。最初の三日のうちに、その集団に合ったクラスの方向性をみんなで確認しておくと、その後の学級経営は本当にスムーズなことが多いと昔から言われてきました。よく考えれば、特別なことじゃなく当然のことなんです。 子どもだって最初は、新たな出会いに期待し、不安もあり、理想の自分像でいようと頑張るのです。だからほとんどの子どもは、学級が始まった最初の3日間は、こちらを向いてくれているのです。
子どもたちの頑張りを見抜けるか
でも本当は急に素直な子になったんじゃなくて、新しい場に順応しようとしていたり、様子をうかがっていたり、警戒しているのです。これは戦闘態勢の一種ですから、交感神経が優位に立ち続けますが、そうそう長持ちはしません。4月後半は、そろそろ本来の実力を発揮し始めているのではないかと思います。では、そうした子どもたちの反応に、先生方が嫌悪感を抱くことは、果たして悪でしょうか?
ひ弱な「ヒト」
自然界において、生身の人間は生物的に非常にひ弱な存在です。牙も毒も持たず、足も遅い。五感は弱く、野生動物がいなくとも自然界で生きていくことは難しいと思います。そうした人間が進化の過程で最も変化させてきたのは、「脳」。この発達のおかげで、道具を作り、火を扱い、武器を作り、集団で狩りをして、現在のところ地球上に君臨しています。そして、野生の頃獲得した、「危険察知能力」。一つひとつは弱いのですが、五感を総合的に使って考え、危険を察知・推理することができる能力です。ただし、生命に関わるので、嗅覚が最も優位で、特に食べ物を分別するのに使ったようです。それでも、犬より何万倍も弱いのですが…。
現代に残る危機察知能力
私たち現代人は、野生動物に襲われることはあまり多くありません。しかし、過去の危機察知能力が現代になっても我々の体に中途半端に残っているのです。食べ物の好き嫌いは、どうやら、その食べ物に触れたときにたまたま同時に感じていた、嫌な匂いのせいだと言うことも、多いようです。実際、嫌いな食べ物を高級料理店で良い香りとともに食べたら、好きになったと言うこともあります。
クラスでの過剰な危機察知能力
四月当初、荒れそうなクラスを見て「あー今年も嫌な予感しかしない」と考えたあなた、危険を敏感に感じ取る感覚は「正解」です。ただし、あくまで、「感覚」に過ぎません。あなたの感じた「あー今年も嫌な予感しかしない」という予感は、なぜそう感じるのか、分析してみることが大切です。本当に危機的な状況なのか、それとも、仲良くなろうとしているワンステップなのか。生徒たちが今まで過ごしてきた幼稚園・保育園、小学校などの様子(学級崩壊していた、不祥事を起こして職員への信頼が揺らいでいる、など)や地域の様子、家庭環境、などが、生徒たちの様子とどのように関わっているかを、正確に観察し、それを一連の流れとして分析できるかということです。
関与しながらの観察
心理学的には、「関与しながらの観察」(サリヴァンsullivan.H)といえるでしょう。子どもたちと生活を共にし、共感的理解などを「示し」て積極的に関わりつつ、同時に、客観的な「観察・分析」も行うということです。もちろん、生徒にとって先生の存在は大きく、その一挙手一投足が注目されています。それを意識した上で関わり、観察する必要があります。先生がどんな表情でクラスに行ったら子どもたちはこんな反応をしていたとか、笑顔の子どもたちの中に影のある笑顔の子どもはいなかったかとか。不機嫌そうな子どもがいなかったか、いたとしたらそれは、教師の笑顔が嫌だったのか、家庭で何かあったのか、友人と何かあったのか。
自分自身をメタ認知
その分析のために生徒に話す内容や言葉遣いを変えてみましょう。そこで感じる違和感・嫌悪感は、教師と子どもの関係からなのか、自分自身に自信がないからなのか、メタ認知を重ねましょう。子どもたちと接することで自分の内側に湧き上がる感情は、プラスでもマイナスでも、手がかりの一つとしてとても大切になるのです。一方、その感情を感情的に受け入れてしまうと、分析できなくなってしまう。あくまでも、自分の感情を一つのセンサーとして、客観的にメタ認知することが大切です。心の(頭の)中では怒ってもいいと思います。それに蓋をするのは、無理ですから(この話はまた今度)。大切なのは、戦略的に対応しているかということです。常に生命の危険に備えるだけの生活ではなく、よりよい生活を作ることに、自分の五感と限られている時間を向けた方が効率的だと思います。
コメント