ストレスチェックを学校で
今年も、学校で実施したストレスチェックの結果が送られてきました。個人で用紙にストレス度を塗りつぶすなどして自分のストレス度をチェックしたものを送付すると、ストレスチェックシートを読み取って教職員のストレス度を計測・分析してくれます。数値を経年比較したり、グラフ化したりして、アドバイスが付け加えられて印刷された判定用紙が、封筒に入って送られてきます。
労働安全衛生法
ストレスチェックは、労働安全衛生法第66条の10に基づき、2015年12月から特定の事業場において実施を義務づけられています。50人以上の労働者を抱える事業場では、すべての労働者に対して年1回の実施が義務づけられています。なので、学校で勤務する教諭はもちろん、職員すべてに実施する義務が生じます。ストレスチェックシートに記入すること自体がストレスで、やりたくない!という教職員もいますが、法律に基づいているので実施の義務があります。これをまとめる養護教諭や教頭は大変かもしれません。
ブラックな労働環境
教職員は、ブラック企業といわれる拘束時間と賃金が見合っていない仕事です。仕事とプライベートの線引きが難しい仕事だけに、その意識化が必要です。実際に月間の総時間外労働が200時間を超過している教職員もざらにいますが、それに対する手当、また、歯止めとして、「教職調整額」というものがあります。その支給額は、勤務時間の長短にかかわらず、教員の勤務時間の内外を問わず包括的に評価するものとして、給料の4パーセント。つまり、20万円の給与であれば、8千円です。仮に200時間の時間外労働をしたと仮定すると、時給40円です。もし一般企業でこんな労働環境を放置していたら、すぐに労働基準監督署などが入って改善命令などが出るでしょう。しかし、学校ではこの実態が明るみに出ても数十年放置されているのです。残業手当を創設するのか、それとも感情労働者としての限界を超えているので、超勤4項目以外は退勤するように厳格化するのか、変化の時に来たようです。
一次予防としてのストレスチェック制度
とはいえ、現状では教員の労働環境は厳しいものがあり、精神疾患による教職員の休職者数・休職率ともに、この30年間で約6倍に増加しており、この十年ほどは高止まりのままほぼ変化していません。こうした勤務実態が教職員の心身を蝕んでいるのは明らかなのです。長時間感情労働(感情が労働に必要不可欠であり、感情の抑制や鈍麻、緊張、忍耐などが絶対的に必要な労働)をしている労働者は、自分でも気がつかないうちに心の疲労度が高まっていることが多くあります。
私たち教職員も、カウンセラーも、この感情労働を日常的に行っています。しかも大幅な時間外労働をしています。プロのカウンセラーですら、年に数回、定期的に心のメンテナンスを行っています。しかし、教員にはカウンセリングを定期的に受ける制度はありません。そこで、「一次予防」としてストレスチェックを実施することにより、ストレスの状態を把握することでメンタルヘルス不調を未然に防止する目的で実施しているのです。もちろん労働安全衛生法にも明記されていますが。一次予防としてあげられるのは、ストレスチェック以外にも、生活習慣の改善、生活環境の改善、心理教育によるレジリエンスの強化、などがあります。
ストレスチェック実施者がいない
ストレスチェック制度は学校にももれなく導入されています。実施にあたって、特定の日が定められているわけではなく、各学校任せ、個人任せになっています。生徒指導や保護者対応、行事などで夜遅くなったり、疲れた翌日に実施したり、午前中授業に生徒を帰した日の午後に実施したりと、その条件が学校ごとに全然異なるので、結果も学校ごとに全然違います。ストレスチェック実施者が目の前にいるわけではありません。だから個人や一つの学校内で結果を考察する分にはある程度参考になりますが、他校との結果を比較して一喜一憂してもあまり意味がありません。でも、この目的は病気のスクリーニングではなく、ストレスの状態を把握することでメンタルヘルス不調を未然に防止する目的で行っているので、問題ないのです。
気づきを促すための結果返却
教職員が、自分のストレスの状態と原因、簡単な解決方法へのヒントを得るための簡単な検査です。どんなストレス要因があるのか、どのくらいの深刻度か、その対処法を見つけるヒント、などが印刷されて返却されます。ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定された者には、産業医などと面談する機会が用意されています。今のところ、心の問題は個人情報的な意味合いが強くあり、多くの感覚では人に公言することを嫌います。ですから、第三者や管理職でさえも、記入後のストレスチェックシートやその分析結果を閲覧することはできません。
心の問題に周囲は気づきにくい
これは、逆に言えば、心の問題は周囲が見た目で何となく気づいても言いにくいし、本人は心的疲労のため判断能力が鈍っているので気づきにくい、上司もデータを見ることが難しい。そうこうしているうちに、脳内で負の感情が再生産されてつまらないことにこだわり、周囲との関係も悪化し、社会生活が困難になることさえあります。それを防ぐために、ストレスチェックの結果で「医師による面接指導が必要」とされた教職員から一ヶ月以内に申出があった場合、医師に依頼して面接指導を実施し、「医師の診断を受ける」ようにしなければなりません。面倒くさいといわず、まずはチェックをしてもらうのが大切です。何もなくても、ストレス反応に対する知識が増えれば、周囲にもあなた自身にもケアしやすくなるからです。
職場のストレス
学校の管理職には、教職員と同じように自分自身のメンタルヘルスの状態が計測・分析された用紙と、さらに学校全体のメンタルヘルスの計測・分析が印刷された用紙が送られて来ます。この学校全体の結果には、ストレスの分析が経年変化で示されています。これを見て、管理職は職場環境の改善に取り組むことが、安全配慮義務として望まれているのです。
ストレスチェックが面倒くさいのは発症一歩手前かも
確かに、ストレスチェックシートの設問をすべて読み、マークシートを一つ一つ塗るという作業は、余裕のない勤務時間の中では大変な面倒くささです。正直、あなたが「面倒くさい」と感じたその直感は、きっと大切な意味があります。忙しすぎて余裕がない、正直に書いたらにらまれる、鬱気味なのがばれたら困る…。こうした心配しても仕方のないことに思考が囚われていたとしたら、あなたの脳が本来の性能を出せずにいる可能性が高いです。そして、自分が、自分の期待値以下の動きしかできないことでイライラしたり、自己評価が下がったりしてさらに落ち込み、悪循環に陥ることもあります。判断力も鈍ります。もう一度今年のストレスチェックの結果を見返して、気になることがあれば、案内のあるところへ連絡を取った方がよいと思います。
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