📊 データが示す現実:約8割の母親が経験する「やめたい」という感情

2024年のABEMA TIMESの報道によると、母親をやめたいと考えたことがある人は、程度の違いはあるものの実に約8割にのぼるというデータが明らかになりました（出典:ABEMA TIMES）。

さらに別の調査では、子育て中に孤独や孤立を感じたことがある女性は74.2%にも達し、男性（35.5%）の約2.1倍という結果が出ています（出典:PIAZZA株式会社調査）。

🧠 心理学から見る「ペアレンタルバーンアウト」

バーンアウト（燃え尽き症候群）とは

バーンアウトは、もともと職業領域で研究されてきた概念で、長期間のストレスや過度の負担によって、心身ともに疲弊し尽くしてしまう状態を指します。

育児における「ペアレンタルバーンアウト」は以下の特徴があります:

• 情緒的消耗感:子育てに対する感情的なエネルギーが枯渇し、何も感じられなくなる
• 脱人格化:子どもに対して機械的な対応しかできなくなる、感情が麻痺する
• 個人的達成感の低下:「自分は良い親ではない」「何をやってもうまくいかない」という感覚
• 慢性的疲労:十分な睡眠をとっても疲れが取れない

なぜ母親だけが追い詰められるのか:ジェンダー規範の問題

日本社会には根強く「母親は完璧であるべき」「子育ては母親の責任」という母性神話が存在します。この社会的期待が、母親を以下のように追い詰めます:

1. 役割の固定化:育児・家事の大部分が母親に集中する
2. 社会的孤立:核家族化と地域コミュニティの衰退により、相談相手がいない
3. 完璧主義の強要:SNSなどで「理想の母親像」と比較してしまう
4. 感情表出の制限:「母親なのに弱音を吐くなんて」という社会的圧力
5. 経済的・時間的制約:仕事との両立、ワンオペ育児

👨‍👩‍👧‍👦 保護者の視点:孤立する育児の実態

データから見る母親の孤立

厚生労働省の調査によると、母親の孤立感に関する実態は深刻です:

• 約半数以上が「子育てにおける孤独感を感じたことがある」と回答
• 63.7%が「子どもと自分だけで家にいる時」に孤独を感じる（出典）
• 48.8%が「社会から隔絶され、自分が孤立している」と感じる
• 44.2%が「社会全体が妊娠や子育てに無関心・冷たい」と感じる

👨‍🏫 教員の視点:学校ができること・できないこと

教員が直面する現実

文部科学省の報告によると、都市化や核家族化の進行により、家庭や地域社会の教育力が低下し、学校や教員に過度の期待が寄せられている状況があります（出典:文部科学省）。

教員の本音と限界

教員自身も以下のような課題を抱えています:

• 多くの業務を抱え、子どもと接する時間が十分に取れない
• 保護者対応に多大な時間とエネルギーを費やす
• 本来の教育活動に専念できない多忙感
• 専門外の家庭支援を求められるストレス
• 組織としての連携体制の不足

学校ができる支援・できない支援

学校ができること:

• 子どもの様子の観察と情報共有
• 必要に応じた専門機関への連携
• 保護者との信頼関係の構築
• 学校全体での組織的対応
• 地域資源への橋渡し

学校だけでは難しいこと:

• 家庭内の深刻な問題への直接介入
• 保護者の精神的ケア（専門的心理支援）
• 24時間体制での見守り
• 経済的支援
• 家庭の代替機能

⚖️ 法的枠組み:社会全体で子育てを支える仕組み

児童福祉法の理念

児童福祉法第1条では、「全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること」が明記されています（e-Gov法令検索）。

第2条では、「全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない」とされています。

子ども・子育て支援法

子ども・子育て支援法第2条では、「子ども・子育て支援は、父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有するという基本的認識の下に、家庭、学校、地域、職域その他の社会のあらゆる分野における全ての構成員が、各々の役割を果たすとともに、相互に協力して行われなければならない」と定められています（衆議院）。

利用できる支援制度

法律に基づく具体的な支援として、以下があります:

• 児童相談所:子育ての悩み相談、専門的支援
• 子ども家庭センター:妊産婦・子育て世帯への包括的支援（2024年施行）
• 地域子育て支援拠点事業:身近な場所での相談・交流
• 一時預かり事業:一時的な保育サービス
• ファミリーサポートセンター:地域での相互援助
• 産後ケア事業:出産後の母親への心身のケア

💊 今、できる具体的な対処法

1. 専門家への相談

2. 自分を許す・完璧主義を手放す

心理学的研究によると、「ほどよい母親(good enough mother)」という概念が重要です。完璧である必要はありません。子どもにとって必要なのは、完璧な親ではなく、「十分に良い」親なのです。

3. 「母親休み」の確保

厚生労働省の資料によると、孤立感解消のために有効な方法として以下が挙げられています:

• 54.2%:育児から解放されて気分転換する時間
• 48.8%:話したいときに話せる相手
• 41.6%:子育てについて相談できる相手
• 40.6%:パートナーが子育てにもっと時間をとって実際に関わる

月に1〜2回でも、自分だけの時間を確保することは、罪悪感を持つことではなく、長期的に良い子育てをするための必要な投資です。

4. パートナーとの役割分担の見直し

研究によると、夫のサポートが疲労感と社会からの孤立を低めることが明らかになっています。具体的な家事・育児のタスクリストを作成し、可視化することで、負担の偏りを認識し、分担を見直すことが有効です。

5. 地域コミュニティとのつながり

孤立を防ぐためには:

• 子育てサークルや親子教室への参加
• 公園での他の保護者との交流
• SNSでの同じ悩みを持つ親とのつながり
• 地域の子育てイベントへの参加

🤝 保護者と教員が協力するために

保護者から教員へ

教員も限られた時間と資源の中で最善を尽くしています。以下の点を意識することで、より良い協力関係が築けます:

• 具体的に伝える:「困っています」だけでなく、何に困っているかを具体的に
• 解決を求めすぎない:学校にできること・できないことがある
• 感謝を伝える:小さなことでも「ありがとう」を
• 早めの相談:問題が大きくなる前に
• 連絡帳やメールを活用:直接言いにくいことも文字で伝えやすい

教員から保護者へ

保護者が孤立している可能性を意識し、以下のアプローチが有効です:

• 否定せず傾聴する:まずは話を聞く姿勢
• 「対応」ではなく「協働」:一緒に考える姿勢を示す
• 専門機関への橋渡し:学校だけで抱え込まず、適切な機関を紹介
• 小さな変化に気づく:子どもや保護者の良い変化を伝える
• 組織で対応する:個人で抱え込まず、学年・学校全体で共有
• 保護者の努力を認める:「頑張っていますね」の一言が救いになる

協働のための具体的な提案

🌟 アドラー心理学から学ぶ「勇気づけ」の子育て

「勇気づけ」とは

アドラー心理学では、子育てにおいて「勇気づけ(Encouragement)」という概念を重視します。これは:

• 結果ではなく過程を認める:「できた」だけでなく「頑張った」を評価
• 失敗を学びの機会とする:失敗を責めず、次への学びとする
• 存在そのものを認める:何かができたからではなく、いてくれるだけで価値がある
• 親自身も勇気づける:自分を責めず、「十分頑張っている」と認める

自分自身への勇気づけ

育児に疲れた母親に最も必要なのは、自分自身への勇気づけです:

📚 研究が示すエビデンス

社会的支援の効果

心理学研究により、以下のことが明らかになっています:

• ソーシャルサポートは母親のメンタルヘルスを有意に改善する（日本心理学会研究）
• 配偶者のサポートは育児ストレスを軽減し、母親の心理的健康を促進する
• 地域コミュニティとのつながりは孤立感を大幅に減少させる
• 専門家への相談は早期であるほど効果が高い

バーンアウトの予防要因

研究により、以下の要因がバーンアウトを予防することが分かっています:

1. 現実的な期待:完璧を求めない
2. セルフケア:自分自身の健康を優先する
3. 役割分担:一人で抱え込まない
4. 社会的つながり:孤立しない
5. 肯定的認知:自分を責めない思考パターン

🌈 まとめ:「母親をやめたい」は助けを求めるサイン

「母親をやめたい」という感情は、あなたが壊れそうになっているサインです。それは決して恥ずかしいことでも、弱さでもありません。むしろ、自分の限界を認識できる強さの表れです。

今日からできる小さな一歩

• ✅ 相談窓口の番号をスマホに登録する
• ✅ パートナーに「疲れている」と正直に伝える
• ✅ 今週1時間だけ、自分だけの時間を作る
• ✅ 「完璧にできなくても大丈夫」と自分に言う
• ✅ 近所の子育て支援センターを調べてみる

👨 父親の役割:「イクメン」を当たり前にするために

母親の負担を軽減するためには、父親の育児参加が不可欠です。しかし、日本における父親の育児参加は、制度面では整備が進んでいるものの、実態としてはまだ十分とは言えません。

データが示す父親の育児参加の実態

• 働く父親の育児参加率:全国平均29.0%（働く母親は71.7%）（出典）
• 6歳未満の子供がいる夫の家事関連時間:1日当たり平均約1時間半程度（総務省統計）
• 育児休業取得日数:平均33日、半数以上が1週間以下（連合調査）

父親が育児参加できない理由

父親の育児参加がもたらす効果

研究により、父親の積極的な育児参加には以下の効果があることが明らかになっています（山梨総合研究所）:

1. 母親への効果:育児負担感の低下、幸福度の向上
2. 子どもへの効果:健康・発達への良い影響、メンタルヘルス不調リスクの低下
3. 父親自身への効果:親子の愛着形成、人生の充実感

「取るだけ育休」の問題

近年指摘されているのが、育児休業を取得しても実際には子育てや家事をほとんどしない「取るだけ育休」の問題です。

この背景には:

• 妊娠・出産について男性が学ぶ機会がない
• 両親教育でも「母親の補助者」扱いされがち
• 育児の「基本」「総論」を教わる機会がなく、「各論」だけが与えられる
• 男性自身も「支援が必要な存在」という認識が低い

父親も「産後うつ」になる

厚生労働省の分析によると、1歳未満の子供を持つ父親の産後うつ頻度は11.0%で、母親の10.8%とほぼ同程度です。父親もまた支援されるべき存在であるという認識が重要です。

社会全体で取り組むべきこと

🏫 学校における支援体制の現状と課題

スクールカウンセラー(SC)の役割

学校における保護者支援の一環として、スクールカウンセラーの配置が進んでいます。2020年度には全国で29,939人が配置され、8〜9割以上の学校で利用可能となっています。

保護者がスクールカウンセラーを利用する利点

• 学校内で無料で相談できる身近な専門家
• 第三者の立場:学校組織とは独立した視点でアドバイス
• 子どもの学校での様子を踏まえた相談が可能
• 教員への橋渡し:必要に応じて教員との連携をサポート
• 専門的知識:臨床心理士など心理の専門家

スクールカウンセラー活用の課題

一方で、以下のような課題も指摘されています:

• 配置時間の不足:週数時間程度の非常勤が多く、相談したい時にいない
• 相談のハードル:他の保護者の目が気になって相談室に行きにくい
• 継続性の問題:年度ごとに担当者が変わることがある
• 学校との連携:情報共有のあり方が学校によって異なる

スクールソーシャルワーカー(SSW)との連携

スクールカウンセラーが「個人」の心理的課題に焦点を当てるのに対し、スクールソーシャルワーカーは「環境」の調整に焦点を当てます。

• 家庭環境の調整
• 福祉・医療機関との連携
• 経済的支援制度の紹介
• 地域資源の活用

2021年度には全国で3,852人が配置されていますが、その94%が非正規雇用という課題があります。

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