ひとりで泣いた夜が教えてくれること

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ひとりで泣いた夜が教えてくれること ー 子どもたちの涙が導く成長の物語

はじめに ー 静かな夜の向こう側

夜10時。中学校の校舎は静まり返り、街灯だけが校庭を照らしています。でも、この時間、どこかの家で、誰かの子どもが一人、机に向かって涙を流しているかもしれません。

教育現場に長く身を置いてきた者として、何度も目にしてきた光景があります。それは、「ひとりで抱えた痛み」が、やがて「自分だけの強さ」に変わっていく瞬間です。

今日は、そんな子どもたちの物語を通して、私たち大人が見落としがちな「成長の本質」について考えてみたいと思います。

実例1:「先生、もう決めました」ー 拓海くんの決意

中学2年生の拓海くん(仮名)は、学年でも上位の成績を保つ優等生でした。しかし、ある日の朝、彼は目に隈を作って登校してきました。授業中も集中力を欠き、明らかに様子がおかしい。

放課後、彼から「少し話があります」と声をかけられました。相談室で向き合うと、彼はこう切り出しました。

「先生、実は最近、毎晩長い時間泣いてたんです。親が離婚することになって…。お母さんが泣いてるのを見て、自分が何もできないことが悔しくて」

彼は続けました。「でも、ある晩、ずっと泣いて泣いて、朝方になって気づいたんです。僕が泣いてても、何も変わらない。でも、僕が前を向かなきゃ、お母さんも楽にならないって」

その後の拓海くんは、確かに変わりました。以前のような笑顔ではなく、もっと深い、何かを乗り越えた人の表情をするようになったのです。彼は家事を手伝い始め、弟の面倒も積極的に見るようになりました。

半年後、彼はこう言いました。「あの夜、一人で泣いたからこそ、自分がどうしたいのか見えたんだと思います。誰かに慰めてもらっても、結局決めるのは自分なんだって」

実例2:「理解してほしかった」から「理解したい」へ ー 彩花さんの気づき

中学3年生の彩花さん(仮名)は、友人関係のトラブルで不登校になりかけていました。仲の良かったグループから突然距離を置かれ、理由もわからず孤立してしまったのです。

彼女は毎晩、SNSを眺めては泣き、「なんで私だけ」と自分を責め続けていたそうです。母親が心配して相談に来られたとき、「娘は部屋で何時間も泣いているんです。声をかけても『放っておいて』と言うだけで…」と涙ながらに語られました。

ある日、彩花さん本人が自ら相談室を訪ねてきました。「先生、私、気づいたことがあるんです」

「毎晩泣いてる間に、いろいろ考えたんです。友達に『理解してほしい』ってずっと思ってた。でも、私、友達のこと全然理解しようとしてなかったかもって。私が笑顔で接してたから、友達も本音を言えなかったのかもしれない」

彼女は涙を拭いながら続けました。「一人で泣いてる時間って、最初はすごく辛いんです。でも、誰もいないからこそ、自分と向き合えるんですよね。親や先生の言葉じゃなくて、自分の中から答えが出てくるっていうか」

その後、彩花さんは少しずつ友人関係を再構築していきました。以前のような表面的な明るさではなく、本当の自分を少しずつ見せられるようになっていったのです。

実例3:「完璧な母親」を手放した日 ー ある保護者の告白

息子さんの進路相談で来校された美穂さん(仮名・40代)。彼女は几帳面で、いつもきちんとした身なりで、PTAの活動にも熱心な方でした。

ところが、その日の彼女は違いました。化粧も薄く、疲れた表情で相談室に入ってこられました。

「先生、実は…もう限界なんです」

彼女が語ったのは、完璧な母親であろうとし続けた10年間の物語でした。息子の勉強も部活も習い事も、すべてをサポート。弁当は手作り、部屋は常に整理整頓。でも、息子は反抗期を迎え、彼女の努力を「うざい」の一言で切り捨てるようになった。

「先日の夜、もう耐えられなくて、夫が寝た後、リビングで声を殺して泣いたんです。何時間も。朝まで」

そして彼女は続けました。「でも、泣きながら気づいたんです。私、息子のためじゃなくて、『良い母親』って思われたくて頑張ってたんだって。息子が本当に何を求めてるのか、見てなかった」

その後、美穂さんは変わりました。完璧を手放し、時には息子に弱音を吐き、時には「わからない」と認めるようになった。すると不思議なことに、息子の方から話しかけてくる回数が増えていったのです。

後日、彼女はこう言いました。「あの夜、一人で泣いたことが転機でした。誰かに慰められても、結局自分が変わらなきゃ何も変わらない。それがわかったんです」

心理学の視点から ー アドラー心理学「勇気づけ」の本質

これら三つの実例に共通するのは、「ひとりで痛みと向き合う時間」が、その後の行動変容につながっているという点です。

ここで、アドラー心理学の「勇気づけ」という概念を見てみましょう。

アルフレッド・アドラーは、オーストリアの精神科医で、人間を「社会的な存在」として捉えた心理学者です。彼の心理学の中核にあるのが「勇気づけ(Encouragement)」という考え方です。

勇気づけとは何か

勇気づけとは、単に「頑張れ」と励ますことではありません。それは、「困難に直面しても、自分には対処する力がある」と信じられるようになることを意味します。

アドラー心理学では、人間の行動の源泉を「劣等感」と「優越性の追求」に求めます。私たちは皆、何かしらの劣等感を持っていて、それを乗り越えようとする過程で成長していくというのです。

重要なのは、この劣等感は悪いものではないということ。むしろ、成長のエネルギー源なのです。

三つの実例を分析する

拓海くんの場合:

彼は「親の離婚を止められない自分」という劣等感に直面しました。でも、一人で泣く中で気づいたのです。「止められなくても、自分にできることがある」と。これがまさに「勇気づけ」のプロセスです。

アドラーは「人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」と言いました。拓海くんは、親との関係、弟との関係の中で、自分の新しい役割を見出していったのです。

彩花さんの場合:

彼女の変化は、アドラー心理学でいう「共同体感覚」の目覚めでした。共同体感覚とは、「自分も他者も、同じ共同体の一員である」という感覚のこと。

彩花さんは最初、「理解してもらえない」という孤立感に苦しんでいました。でも、一人で向き合う中で、「理解しようとしていなかった自分」に気づいた。これは、自分中心の世界観から、他者との関係性を含む世界観への転換です。

美穂さんの場合:

彼女の物語は、アドラーが警鐘を鳴らした「承認欲求」の罠を示しています。美穂さんは「良い母親と思われたい」という他者からの評価を求めていました。

アドラーは「他者の評価を気にしていては、自分の人生を生きられない」と説きました。美穂さんが涙の中で手放したのは、まさにこの承認欲求だったのです。

なぜ「ひとりの時間」が必要なのか

アドラー心理学では、「課題の分離」という重要な概念があります。これは、「誰の課題か」を明確にすることを意味します。

親の離婚は、親の課題です。友人との関係は、自分と友人の課題です。息子の人生は、息子の課題です。

でも、私たちはつい、他人の課題に踏み込んだり、他人に自分の課題を背負わせようとしたりしてしまいます。

「ひとりで泣く時間」は、まさにこの「課題の分離」が起こる時間なのです。誰もいない空間で、自分と向き合うとき、私たちは初めて「これは誰の課題なのか」「自分に何ができるのか」を見極められます。

三人とも、一人で涙を流す中で、この気づきに到達しました。そして、「自分の課題」に集中することで、逆説的に、周囲との関係も改善していったのです。

あなた自身の勇気づけ ー 今ここで体験するワーク

ここまで読んでくださったあなたに、実際に「勇気づけ」を体験していただきたいと思います。

これは、アドラー心理学の「勇気づけ」をベースにした、自己との対話のワークです。誰にも見せる必要はありません。あなた一人の、あなたのための時間です。

ステップ1:静かな空間を作る(2分)

まず、スマートフォンの通知をオフにして、静かな場所を見つけてください。椅子に座っても、床に座っても構いません。

目を閉じて、深呼吸を三回してください。

吸って…吐いて…
吸って…吐いて…
吸って…吐いて…

今、この瞬間、あなたはここにいます。それだけで十分です。

ステップ2:今の気持ちに名前をつける(3分)

紙とペンを用意してください(スマートフォンのメモ機能でも構いません)。

今、あなたが感じている気持ちを、正直に書き出してください。

  • 不安?
  • 疲れ?
  • 怒り?
  • 悲しみ?
  • それとも、名前のつけられない複雑な感情?

どんな感情も、否定しないでください。「こう感じちゃダメ」と思わなくていいのです。ただ、「今、私はこう感じている」と認めてください。

例:「子どものことで不安。でも、疲れてもいる。自分がダメな親なんじゃないかって思ってる」

ステップ3:その感情の「理由」を探る(5分)

次に、その感情が生まれた理由を考えてみます。でも、ここで大切なのは、「誰かのせい」にしないことです。

アドラー心理学では、感情は「目的」を持って生まれると考えます。つまり、あなたの不安や悲しみは、何かしらの目的があって存在しているのです。

問いかけてみてください:

  • 「この感情は、私に何を教えようとしているのだろう?」
  • 「この感情があることで、私は何から自分を守ろうとしているのだろう?」

例:「不安なのは、子どもを大切に思っているから。失敗させたくないって思ってる。でも、それって本当は、私が『良い親』でありたいからかも」

ステップ4:「できないこと」と「できること」を分ける(5分)

これが「課題の分離」のステップです。

紙を二つに分けて、左側に「私にはコントロールできないこと」、右側に「私にできること」を書き出してください。

左側(コントロールできないこと):

  • 他人がどう思うか
  • 子どもの選択
  • 過去の出来事
  • 相手の気持ち

右側(できること):

  • 自分の行動を選ぶこと
  • 子どもに何を伝えるか
  • 今、この瞬間をどう生きるか
  • 自分の気持ちを正直に表現すること

この作業をしていると、気づくことがあります。私たちは、コントロールできないことに多くのエネルギーを費やしているということです。

ステップ5:小さな一歩を決める(3分)

最後に、「私にできること」のリストから、一つだけ選んでください。

そして、それを今日か明日、必ず実行できる小さな行動に落とし込んでください。

例:「子どもに『最近どう?』って聞くんじゃなくて、『お母さん、最近疲れてるんだ』って自分の気持ちを伝えてみる」

完璧である必要はありません。小さな一歩でいいのです。

ステップ6:自分を勇気づける(2分)

最後に、鏡を見るか、自分の手を見つめて、こう言ってください:

「よく頑張ってるね。完璧じゃなくても、あなたは十分やってる」

恥ずかしいかもしれません。でも、これが「勇気づけ」の第一歩です。

他人を勇気づける前に、まず自分を勇気づけること。それが、アドラー心理学の教えです。

これからの道のり ー あなたの変革を

ここまでのワークを通して、何か感じるものがあったでしょうか。もしかしたら、「これで変わるの?」と疑問に思ったかもしれません。

大丈夫です。変化は、一瞬で起こるものではありません。でも、確実に起こります。

目指すところ ー 「不完全な勇気」を持つこと

アドラー心理学が目指すのは、「完璧な人間」になることではありません。むしろ、「不完全でもいい」という勇気を持つことです。

アドラーの言葉に、こんなものがあります:

「完璧を目指すな。完全である必要などない。不完全な勇気を持て」

私たちが目指すのは:

  • 失敗してもいいから、挑戦する勇気
  • 完璧な親でなくても、子どもを愛する勇気
  • わからないことを「わからない」と言える勇気
  • 一人で泣いてもいい、その後また立ち上がる勇気

マイルストーン ー 3ヶ月の旅

では、具体的にどう進んでいけばいいのでしょうか。ここでは、3ヶ月を一つの区切りとした道のりを示します。

1週目〜2週目:気づきの期間

目標: 自分の感情に気づく習慣をつける

具体的な行動:

  • 毎晩寝る前に、今日の感情を3つ書き出す
  • 「べき」「ねばならない」という言葉を使ったら、メモする
  • 一日一回、深呼吸をして自分の体の感覚に注意を向ける

起こりうる変化: 自分が思っていた以上に、いろんな感情を抱えていることに気づくでしょう。それでいいのです。

3週目〜6週目:分離の期間

目標: 「課題の分離」を実践する

具体的な行動:

  • 悩みが生じたら、「これは誰の課題?」と自問する
  • 他人の課題に踏み込みそうになったら、立ち止まる
  • 週に一度、「コントロールできること/できないこと」リストを更新する

起こりうる変化: 最初は孤独感や不安を感じるかもしれません。「手を離す」ことは怖いものです。でも、次第に、肩の荷が下りる感覚が訪れます。

7週目〜10週目:行動の期間

目標: 小さな行動を積み重ねる

具体的な行動:

  • 毎日一つ、「自分の課題」に取り組む行動をする
  • 失敗を「学び」として捉える練習をする
  • 自分を勇気づける言葉を、毎朝鏡の前で言う

起こりうる変化: 小さな成功体験が積み重なっていきます。同時に、失敗しても「まあいいか」と思えるようになってきます。

11週目〜12週目:振り返りと統合

目標: 変化を実感し、次のステップを考える

具体的な行動:

  • 3ヶ月前の自分と今の自分を比較する
  • うまくいったこと、難しかったことを書き出す
  • 次の3ヶ月で挑戦したいことを一つ決める

起こりうる変化: 劇的な変化ではないかもしれません。でも、確かに「何かが違う」と感じられるはずです。それが、本当の変化です。

重要な注意点

この旅は、一直線に進むものではありません。時には戻ることもあるでしょう。それは「失敗」ではなく、「プロセスの一部」です。

アドラー心理学では、人生を「登山」ではなく「ダンス」に例えます。頂上を目指すのではなく、今この瞬間の動きを楽しむ。そんな姿勢が大切なのです。

終わりに ー あなたへの勇気づけ

ここまで長い文章を読んでくださって、ありがとうございます。

変化とは、今までの安定を少し乱すことから始まります。完璧な毎日を送ろうとするのではなく、不完全でも、自分らしい一日を生きること。

拓海くんも、彩花さんも、美穂さんも、そして私たちも、皆、不完全な存在です。失敗もするし、迷うし、泣くこともある。

でも、それでいいのです。

本当の悲しみは、誰かに慰められても、最終的には自分自身で受け止め、消化していくものです。

この言葉は、孤独を美化するものではありません。むしろ、こう言っているのです:

「誰かに頼ってもいい。でも、最後に自分の人生を選ぶのは、あなた自身だ」

一人で泣く夜は、辛いものです。でも、その涙の向こうに、新しい朝が待っています。そして、その朝は、昨日までとは少し違う景色を見せてくれるのです。

今、この瞬間に

最後に、あなたに贈りたい言葉があります。

もし今、あなたが何かに悩んでいるなら。
もし今、子どものことで心配しているなら。
もし今、自分を責めているなら。

少しだけ、肩の力を抜いてください。

深呼吸をして、こう自分に言ってみてください:

「今日も、よく頑張った」
「完璧じゃなくても、私は十分やっている」
「明日は明日の風が吹く」

そして、こう決めてください:

「悩んでいた夜は、今日で終わりにしよう」

今日から、あなた自身の変革が始まります。

それは、誰かと比べる必要のない、あなただけの変化です。

自分の生き方を、誰にも決められることなく、あなた自身が選んでいく。

その第一歩を、今、ここで、踏み出してください。

あなたなら、きっとできます。

なぜなら、ここまで読んでくれたあなたは、すでに「変わりたい」という勇気を持っているのですから。


このブログが、あなたの小さな一歩のきっかけになれば幸いです。コメント欄で、あなたの変化の物語を聞かせていただけたら嬉しいです。一緒に、不完全な勇気を持って、前に進んでいきましょう。

 

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